先日、全日本鍼灸学会で睡眠に関する研究発表を行いました。学会から帰ってきて患者さんから
「学会お疲れさまでした」
「発表どうでしたか?」
と声をかけていただく機会がありました。その時に改めて考えたことがあります。
それは、私はなぜ学会に参加するのだろうかということです。
実は、毎年欠かさず何十年も参加しているわけではありません。
学会へ継続的に参加するようになって4年、そして発表するのは今回で3回目です。
それでも私は、少なくともこれから先2年は必ず参加しようと決めています。
一つには今回の学会で発表した内容が「症例集積」というものであり、今回の発表はいわゆる序章に過ぎないからです。
そして続けて発表する理由はおそらく知識を増やしたいからだけではないのかもしれません。
今回はっきりと思っていることは学会に参加することが患者さんとの信頼関係を大切にしていることに繋がっていると確信が持てたことです。
昔の私は学会がよく分かりませんでした
鍼灸学校を卒業したばかりの頃、学会は正直なところ苦手でした。休みを取ってまで行かなくても・・・と思っていました。発表を聞いていても、
「難しいな」
「自分とは治療法が違うから関係ない」
「現場では役に立たないかも」
そんなふうに思うこともありました。
何を話しているのか理解できないこともありましたし、自分の臨床とは遠い世界の話に感じていたのです。だから学会はどこか「偉い先生たちが集まる場所」という印象でした。
しかし今振り返ると、それは私自身が学会との向き合い方を知らなかっただけなのだと思います。
発表する側になって見えたこと
私の中で大きな転機になったのは、自分自身が発表をするようになったことでした。
発表を経験すると、それまでとは全く違う景色が見えてきます。
治療で良い結果が出た。患者さんが元気になった。
それだけなら日常の臨床でも経験できます。
しかし学会では、
「なぜそう考えたのですか?」
「どうしてその方法を選んだのですか?」
「その変化をどのように評価したのですか?」
という問いが返ってきます。つまり、自分が当たり前だと思っていたことを、他人に伝わる形で説明しなければなりません。そこで初めて気づくのです。自分が伝えたいことと、相手に伝わることは違うのだと。
患者さんとの関係も同じ
この経験は、実は普段の臨床とよく似ています。私は普段、患者さんのお話を丁寧に聞くことを大切にしています。
しかしどれだけ真剣に向き合っていても、私が伝えたつもりになっていることと、患者さんが受け取っていることは必ずしも同じではありません。
例えば、「今は無理をしない方がいいですよ」という言葉ひとつでも、患者さんによって受け取り方は違います。
だから私は、相手にどう伝わったのかを確認することを大切にしています。
そしてそれは学会でする発表も同じです。
発表した内容に対して質問や意見をいただくことで、自分の伝え方や考え方の癖が見えてきます。
そしてその経験は、患者さんとのコミュニケーションにも活かされています。
学会は知識を学ぶ場所ではなく対話する場所
以前の私は、学会は知識を学ぶ場所だと思っていました。
もちろんそれも間違いではありません。
しかし今は少し違います。学会は、
自分とは違う価値観や経験を持つ人と対話する場所
だと思っています。
鍼灸には様々な流派があります。考え方も違います。治療法も違います。
だからこそ面白いのです。
「そんな見方があったのか」
「その考え方は思いつかなかった」
「その発想ならうちの患者さんにも役立つかもしれない」
そんな発見がたくさんあります。
私は毎回、学会で新しい知識以上に新しい視点をもらっています。
患者さんが研究を育ててくれている
今回の睡眠研究もそうでした。私一人では発表できませんでした。アンケートに協力してくださった患者さん。経過を追わせてくださった患者さん。睡眠について悩みを聞かせてくださった患者さん。皆さんの協力があったからこそ、研究として形にすることができました。今回の発表では、
「町の鍼灸院でここまで継続してデータを集めているのは素晴らしい」
という評価もいただきました。それは私がすごいのではありません。患者さんとの信頼関係があったからこそ実現できたことです。だから私は学会発表を、自分一人の成果だとは思っていません。患者さんと一緒につくった研究だと思っています。
これからも学び続ける理由
私は研究者ではありません。大学の先生でもありません。名古屋の小さな鍼灸院で、一人ひとりの患者さんと向き合う街の鍼灸師です。
だからこそ現場で見えるものがあります。そして現場で見えたものを学会で発信する価値があると思っています。学会に参加することで、自分の考えを見直すことができます。新しい視点を得ることができます。患者さんにより良い治療を届けるためのヒントを得ることができます。その積み重ねが、患者さんとの信頼につながると私は信じています。
来年も学会へ行ってきます
今回で継続的な学会参加は3年目になりました。まだまだ学ぶことばかりです。
そしてようやく見えきたこともあります。だからこそ、少なくともあと2年は必ず学会へ参加しようと決めています。それは発表するためだけではありません。患者さんの声をより多くの人に届けるため。
そして患者さんにより良い形で還元するためです。
学会で学んだこと。
研究で見えてきたこと。
患者さんから教えていただいたこと。
それらを一つひとつ積み重ねながら、これからも臨床に向き合っていきたいと思います。
患者さんとの信頼関係は、一度築いたら終わりではありません。
学び続けること。
考え続けること。
そしてより良い治療を届けようと努力し続けること。
それもまた、信頼関係を育てる大切な一歩だと思っています。
来年の学会では、今年より少し成長した姿で発表できるよう、また日々の臨床を大切に積み重ねていきたいと思います。
