梅雨に入ってから、治療中に気が付かないうちに寝てしまう患者さんが増えてきました。今日はそんな「うとうとする心地よさの正体」についてお話ししてみようと思います。
鍼灸の施術中に「うとうとしちゃいました」と言われることがよくあります。中には、「眠るつもりはなかったのに、気づいたら意識が遠のいていて…」なんて言いながら、はにかむ方も。実は、これ、鍼灸ならではの独特な感覚なんです。
私自身、学生の頃に初めて鍼を受けたとき、「なんだこの安心感…」と思ったのを今でも覚えています。どこかで「身をゆだねても大丈夫」というような、深いリラックスの波に包まれる感じ。これは鍼が、私たちの自律神経のバランスに働きかけてくれている証拠なんです。
現代人の多くは、交感神経(戦う・働くモード)が優位な状態で毎日を過ごしています。スマホ、パソコン、人間関係、時間に追われる生活…無意識のうちに、体も心もずっと「頑張る」モード。そんなときに鍼を打つと、副交感神経(休む・回復するモード)がふわっと優位になり始めます。
特に、ツボの中には「安眠」や「鎮静」に関わるものが多く、そういったポイントに鍼をしていくと、脳波もリラックス状態に近づいていきます。すると、まるで深呼吸をするように、身体が「ふぅ〜…」と力を抜いてくれるのです。
それは単なる“眠気”ではなくて、緊張がほどけて本来の呼吸やリズムを取り戻すための、いわば“回復モード”。だから、うとうとするのは、身体がちゃんと整ってきているサインなんですね。
そして何より、鍼灸には“触れられているのに守られている”ような不思議な安心感があります。鍼は皮膚を貫くものですが、痛みを伴わず、むしろ温かく、優しく、内側から「もう大丈夫だよ」と言われているような感覚になることも。
だから、あのうとうとは、ただの「眠気」ではなく、「自分を取り戻している時間」なのかもしれません。
今日もうとうとしてしまったあなたの身体は、きっといい方向に進んでいます。どうぞ、思いっきりゆだねてくださいね。
